血液脳関門(けつえきのうかんもん、, BBB)とは、
血液と
脳(そして
脊髄を含む
中枢神経系)の
組織液との間の物質交換を制限する機構である。これは実質的に「血液と
脳脊髄液との間の物質交換を制限する機構」=血液髄液関門 (blood-CSF barrier) でもあることになる。ただし、BBBは
脳室周囲器官(
松果体、
脳下垂体、最後野など)には存在しない。これは、これらの組織が
分泌する
ホルモンなどの物質を全身に運ぶ必要があるためである。
従来は主として、
毛細血管の
内皮細胞の間隔が極めて狭いことによる
物理的な障壁であるとされたが、中枢神経組織の毛細血管内皮細胞自体が特殊な
生理的機能を有するのだという主張もある。かつては
分子量500を超える分子(多くの
蛋白質など)や、
脂溶性が低い
荷電した
イオンは
脂質二重膜を透過できず、血液循環から中枢神経系の中に入ることができないとされていた。この「分子量閾値説」は、1980年にレヴィンによって提唱され
[V.A.Levin. Relationship of octanol/water partition coefficient and molecular weight to rat brain capillary permeability. J. Med. Chem., 23, 682-684 (1992)]広く流布した仮説であったが、これに対して
辻らは1992年に脳毛細血管内皮細胞上に存在する
P-糖蛋白が脳内から血管へ物質を積極的に排出しているという仮説を提唱し
[ A.Tsuji, T.Terasaki, Y.Takabatake, Y.Tenda, I.Tamai, T.Yamashita, S.Moritani, T.Tsuruno and J.Yamashita. P-glycoprotein as the drug efflux pump in primary cultured bovine brain capillary endothelial cells. Life Sci., 51, 1427-1437 (1992) ]、ラット
脳虚血再灌流モデルによりこれを実証した
[A.Sakata, I.Tamai, K.Kawazu, Y.Deguchi, T.Ohnishi, A.Sahei and A.Tsuji. In vivo evidence for ATP-dependent P-glycoprotein mediated transport of cyclosporin A at the blood-brain barrier. Biochem. Pharmacol., 48, 1989-1992 (1994) ]。また、シンケルらもP-糖蛋白ノックアウトマウスを用いた実験によりこの仮説を証明した
[A.H.Schinkel, J.J.M.Smit, O van Tellingen, J.H.Beijnen, E.Wagenaar, L van Deemter, C.A.A.M.Mol, M.A. van der Valk, E.C.Robanus-Maandag, H.P.J. te Riele, A.Berns and J.M.P.Borst. Disruption of the mouse mdr1a P-glycoprotein gene leads to a deficiency in the blood-brain barrier and to increased sensitivity to drugs. Cell, 77, 491-502 (1994)]。その後、同様の機能をもつ排出トランスポーターが相次いで発見され、血液脳関門の機能は、グルコースをはじめとする必須内因性物質の取り込みと異物を排出する積極的なメカニズムに支えられていることが明かとなった
[大槻純男, 堀里子, 寺崎哲也 血液脳関門の薬物透過と排出の分子機構. 日薬理誌, 122, 55-64 (2003)],
[H.Sun, H.Dai, N.Shaik and W.E.Elmquist. Drug efflux transporters in the CNS. Adv. Drug Delivery Rev., 55, 83-105 (2003) ]。この働きにより、中枢神経系の
生化学的な
恒常性は極めて高度に維持されている。