さまざまな病原体がその宿主(ヒトや動物など)に感染することで
感染症が引き起こされるが、このとき感染が成立しても、その感染症特有の症状がはっきりと判らない、無症候の場合がある。宿主の
免疫などの感染に対する防御機構の働きによって発病するに至らない場合(
不顕性感染)や、その病原体に特有の性状(慢性疾患の原因であるなど)によって症状の出ない時期がある場合が、これにあたる。
この状態の宿主は、症状が顕れないために外見上は健康で非感染者との見分けがつかないが、その病原体が宿主の体内で増殖している場合があり、特にヒトからヒトに感染する伝染病などでは、本人が気付かないままに
感染源としての役割を果たす場合がある。このような状態にある宿主を
無症候性キャリアと呼ぶ。
代表的な例の一つに、
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症(
後天性免疫不全症候群、エイズ)の場合がある。HIV感染症では感染直後に一過性の
かぜ様の症状があらわれるが、その後長い場合では10年間以上、症状の顕れない時期(無症候期)が続き最終的にエイズを発症する。しかし、無症候期の間もHIVは血液中で
T細胞に感染しながら徐々に増殖しており、この時期の宿主も感染源として血液や性交渉を介してHIVを伝染させる能力を持った、無症候性キャリアの状態にある。このほか、
ヒトT細胞白血病ウイルス(ヒトTリンパ球向性ウイルス)や、慢性
ウイルス性肝炎の原因となるB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど、潜伏感染や慢性感染を起こす病原体による疾患で多く見られる。