ゲノム wikipedia|無料辞書
ゲノム()という語には、現在、大きく分けて二つの解釈がある。
分子生物学の立場からは、すべての生物を一元的に扱いたいという考えのもと、
ゲノムはある生物のもつ全ての
遺伝情報としている。
ゲノムには、
タンパク質の
アミノ酸配列をコードする
コーディング領域と、それ以外のいわゆる
ノンコーディング領域に大別される。ゲノム配列解読当初、ノンコーディング領域については、その一部が遺伝子発現調節等に関与することが知られていたものの、大部分は意味をもたないものと考えられ、
ジャンクDNAとも呼ばれていた。現在では、遺伝子発現調節のほか、RNA遺伝子などの生体機能に必須の情報が、この領域に多く含まれることが明らかにされてきている。
◆定義
「ある
生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」として定義される。遺伝子「
gene」と、染色体「chromos
ome」あるいはgene(遺伝子(ジーン)の)+ -ome(総体(オーム))= genome (ジーノーム)をあわせた造語であり、
1920年にドイツのハンブルク大学の植物学者Hans Winklerにより造られた。複数の
染色体からなる二倍体細胞においては全染色体を構成する
DNAの全塩基配列を意味することもある。
H. Winkler によるはじめの定義では
配偶子が持つ
染色体の一組を意味したが、後に
木原均(
1930年)による
コムギ染色体の倍数性の観察に基づき、
生物をその生物たらしめるのに必須な最小限の染色体セットとして定義し直し、ゲノム説を提唱した。
二倍体生物においては、生殖細胞に含まれる全染色体、もしくはその
遺伝情報を意味し、体細胞には2組のゲノムが存在すると考える。
◆ゲノム分析
植物において、生命維持の基本単位であるゲノムが一つの細胞に3組以上存在するという、多倍数性がみられることがある。木原によるゲノム説の元となったパンコムギにおいては、3種のゲノムが2組ずつ合わさった6倍体であることが示された。このようにゲノム構成を明らかにすることをゲノム分析と呼ぶ[http://www.civic.ninohe.iwate.jp/100W/05/047/page2.htm - 木原均(『日本の科学者・技術者100人』より)]。
◆数と大きさ
遺伝子数とゲノムサイズは必ずしも比例しない。両生類や植物のユリのゲノムサイズは大きく、昆虫や
トラフグではゲノムサイズが小さい。これは
イントロンや遺伝子間の
ジャンクDNAの長さが原因である。進化の過程でゲノムサイズは増加していくが、あるときゲノムをコンパクトにすることが起こるためであると考えられている。
◆現在の研究
近年、ゲノムの全塩基配列を解読することを目標とした
ゲノムプロジェクトがさまざまな種を対象に実施されている(完了したのはゲノム配列決定であり、内容の解読は完了していないので、「ゲノムプロジェクト」ではなく、ゲノムシーケンシングプロジェクト、あるいはゲノム配列決定プロジェクトともいう)。全ゲノム情報の解明は網羅的解析による生命現象の理解の基盤となるものである。しかし塩基配列を読み取っただけでは生命現象の理解には不十分で、個々の塩基配列の機能や役割、発現したRNAやタンパク質の挙動などを幅広く検討していかなければならない。
そこで、現在ではゲノムを研究する
ゲノミクス(ジェノミクスともいう)を初めとして、オーミクス(-omics = -ome + -ics)と呼ばれる、網羅的解析を特徴とする研究分野が盛んになってきている。ゲノムDNAからの転写産物(トランスクリプト; Transcript)の総和として
トランスクリプトーム(Transcriptome)、存在するタンパク質(プロテイン; Protein)の総体として
プロテオーム(Proteome)がある。また代謝産物(Metabolite)の総和として
メタボローム(Metabolome)という概念もある。特にプロテオームを扱う分野を
プロテオミクスという。これらのゲノム解読以降の研究を総称してポストゲノムと呼ぶことがある。プロテオミクスはポストゲノム研究として最も注目されている分野のひとつであったが、実際的な成果がなかなか出なかったことから、海外の製薬企業などはプロテオミクスから撤退しているところも多い。
オーミクスでは、データを効率良く網羅的に収集し、コンピュータによって解析することが必須となる。これに対応する
バイオインフォマティックスという分野の研究も盛んである。
また、ゲノム研究は
SNPs解析などを通じて医療分野への応用も期待されている。
◆ゲノムサイズの例