共鳴構造から分かるように、エノラートは
カルボニル基の α 位の炭素上から水素がプロトンとして解離したものでもある。そのため、エノラートはカルボニル化合物を強
塩基によって処理して α 位プロトンを引き抜くことで調製できる。用いる強塩基は求電子性を持つカルボニル基が求核性を持つ塩基と反応してしまうのを避けるため、求核力の低い塩基である水素化ナトリウムやリチウムジイソプロピルアミドなどを使用することが多い。
ケトンのように α 位炭素が2つ存在し、そこに結合している置換基の数が異なる場合は反応条件によってどちらの炭素から水素が引き抜かれたエノラートが生成するかが決まる。低温(通常 −78 ℃)で
リチウムジイソプロピルアミドのような強い塩基でエノラートを調製した場合には置換基の数が少ない方の炭素から水素が引き抜かれる速度が速いために、そのようなエノラートが優先して生成する。これを「速度論支配のエノラート」という。
このようにして調製されたエノラートは共鳴式の通り負電荷が炭素上と酸素上に存在するアンビデント求核剤である。エノラートの酸素原子は硬い塩基(
求核剤)、炭素原子は軟らかい塩基として振る舞う。そのため
HSAB則に従い、軟らかい酸(求電子剤)と反応するときは炭素上で結合が生成し、硬い求電子剤と反応するときは酸素上で結合が生成する。ハロゲン化アルキルや α,β-カルボニル化合物と反応するときは炭素上で結合し、トリアルキルクロロシランと反応するときは酸素上で結合してシリルエノールエーテルを生成するのはこのためである。